2018.09.27 【イベントレポート】映像解析AIの今がわかる『SCORER Partner Summit 2018』を開催しました
9月14日、『SCORER Partner Summit 2018』を開催しました。新たにスタートする「SCORERパートナープログラム」を発表した他、映像解析AIの研究において第一人者であり当社の技術顧問でもある東京大学大学院情報理工学系研究科准教授の山崎俊彦氏による映像解析AIに関する特別講演、また映像解析システムの開発プラットフォーム「SCORER(スコアラー)」を活用した成功事例の紹介を行いました。
大盛況に終わったイベントの模様をレポートします。
オープニングスピーチに当社CEO鳥海が登壇
オープニングスピーチに登壇したのは当社代表取締役CEOの鳥海 哲史。鳥海はまずAIの歴史について紹介しました。
「AIは95年頃からブームになり、現在は第3次ブームといわれています。2012年には画像認識にディープラーニングが使用され話題になりました」
大容量データを処理する必要のある映像解析AIが広がりを見せている背景には、いくつかのトレンドがあると鳥海は話します。
一つはカメラが低価格化してきたこと。そして解析・保存コストがここ数年で劇的に減少してきたこと。さらに通信コストの減少と、Raspberry Piのような安価で高性能なエッジデバイスが普及したことも影響しているといいます。
かつてのAIブームはあくまで研究者レベルでの話でしたが、先述のような環境が整ってきたことにより、2018年現在ではいよいよ実用になってきたといえます。
特に急成長が見込まれているのが映像解析市場。今後、マーケットが数兆円規模に育っていくという見通しがある一方で、鳥海は「企業のAI活用には課題がある」と指摘します。
その課題とは次の3点です。
- AIエンジンだけ持っていても何もできない
- ランニングコストが合わずPoCで終わってしまう
- 何を解決したらいいかわからない
「たとえば小売店にカメラを入れてテストしようとしても、1店舗につき400〜500万円ほどかかってしまいます。それを1000店舗に展開するのは容易ではありません。しかも開発コストだけでなく、AIにはランニングコストもかかります。また、AIを使って何かしなさいと上から言われても、そもそもAIで何を解決すればいいのか、課題自体を見つけられないというケースもあるでしょう」
こうした課題を解決するのが、当社が提供する映像解析システムの開発プラットフォーム「SCORER(スコアラー)」です。
SCORERでは映像解析プロセスの80%を共通化することにより、開発費用と期間、ランニングコストを大幅に圧縮することができます。
鳥海はMITメディアラボ・伊藤譲一所長の言葉を引用し、「今のAIは大脳ではなく脊髄反射にすぎません。労働をAIで置き換えるのではなく、作業の一つひとつをAIで置き換えていくことで、人間ができることを広げていくべきです」と論を展開。
「SCORERは技術プラットフォームというよりも、エコシステムとして広めていきたい」と思いを述べ、オープニングスピーチを締めくくりました。
東京大学大学院准教授・山崎俊彦氏による特別講演「IoTカメラを用いたAI研究事例」
続いて、当社の技術顧問でもある東京大学大学院情報理工学系研究科准教授の山崎俊彦氏より、映像解析AIに関する特別講演が行われました。
山崎氏は普段、ビッグマルチメディアデータを用いた魅力の定量化・予測・解析などを行う「魅力工学」を研究されています。たとえば広告の効果やSNSでの人気、婚活での成功率、ブランドの価値、プレゼンテーションの印象など、魅力工学は様々なシチュエーションに応用できる研究分野です。
そんな「魅力」の解析に山崎氏はAIを活用されており、当社とも共同研究を行っておられます。
「フューチャースタンダードさんと共同研究をしていてすごいなと思うのは、デバイスの導入コストやランニングコストが自分でやるよりも圧倒的に安いこと。また、データの集め方など、いろいろと考えないといけないこともありますが、そういったものをすべてSCORERに任せられるので、私はやりたいことに集中できるのです」
山崎氏はさらに「IoTカメラを用いたAI研究事例」として、「保育」「不動産」「店舗」「教育」の4分野におけるSCORERの活用例を紹介されました。
保育については、当社と共同開発したIoTカメラとオムロンの環境センサーを用いて保育環境をセンシング。これにより、室内の温度や湿度、二酸化炭素濃度等を継続的に取得し、園児たちがすごす環境が快適かどうかを客観的に評価できるようになります。
また、園児の体温をサーモカメラで取得することで発熱を検知したり、カメラの映像解析を行うことでうつぶせ寝などを検知できたりと、いち早く異常を検知できる仕組みを整えることができます。
特に人の動きの解析については「昨年まではできなかった」というほど難度の高い技術でしたが、当社との共同研究を通して急速に技術が進歩しており、今では90%の精度で動きを追い続けることができるようになったとのこと。
これにより「誰と誰が何分遊んでいたとか、先生とどれくらい関わっていたか、インフルエンザになった子が誰と接触したかなども解析できるようになった」といいます。
不動産領域でも、SCORERは大いに活用の機会があります。
注目したいのは「住心地」。実際に住まないとわからないだけに、これまで物件ごとの比較は困難でした。
山崎氏はこれを各種センサーを用いて計測。その結果、「様々な思い込みが明らかになった」といいます。
たとえば、マンションにおける窓のある部屋とない部屋のどちらが暖かいか。
窓があり、光が入る部屋の方に暖かいイメージを抱きがちですが、実際に計測してみると窓のない部屋のほうが暖かかったということです。
こうした日照条件を計測・解析するだけでも、通常は多額の費用がかかるのですが、SCORERを用いることでコストを抑えることが可能となります。
小売業でもIoTカメラを用いたAI解析が注目されています。
たとえばコンビニエンスストアの在庫管理。これも映像解析を行うことで、棚からどれくらい商品が減ったのかや補充の状況などを分析することができます。
山崎氏は「IoTとAIはこれからが面白い」とコメント。その理由として「低価格化やクラウド化など武器がそろってきた」ことを挙げ、「レゴみたいにそれらをどう組み合わせるかがポイント。組み合わせは使う人次第で、無限の可能性がある」と今後のSCORERの普及に期待を寄せておられました。
パネルディスカッション「AI研究をビジネス活用するために必要なものとは」
続いてのパネルディスカッションでは、基調講演を行っていただいた山崎氏に加えて当社CEOの鳥海が再び登壇。共同研究の経緯やAIの現状について意見を交わしました。
山崎氏はSCORERの第一印象について「当初は(SCORERのコンセプトを)当たり前と感じた」といいますが、よく調べてみると競合らしい競合が見つからなかったとのこと。「当たり前と思えたことの裏にものすごい技術があり、サービスとして提供できるのはすごい」と思ったといいます。
また、企業とアカデミアではAIに対する認識や期待感にギャップがあることを指摘。「大学で行っているのはあくまで研究。車で例えるなら性能の良いエンジンは作れるが、車として納品できるわけではない」と述べ、「企業は認識不足だし、大学も歩み寄りが不足している」と苦言を呈しました。
これに鳥海は、「AIについて調べてきてくれる会社とはギャップをそんなに感じないが、展示会などではまだまだギャップを感じることもある」と企業同士でもギャップがあることを明かしました。
話題は現在のAIのトレンドへ。
山崎氏は「単眼のカメラでもかなりの精度で解析できるようになり、人間の感情も予測できるようになってきた」と述べ、「精神状態を判定するなど、外見的内面的理解が進んできている。それが今後も続くだろう」と予想。
一方で鳥海は「“人手不足”がAI普及のカギ。メンテナンスや定期的な巡回などは人よりもカメラを入れる方が安くなるのでは。そういった分野でのAI活用は今後増えてきそう」と分析しました。
最後に「今後、日本がAIで飛躍するための課題」について、山崎氏が「企業が持つリアルデータが必要」と回答し、大学と企業とのコラボレーションの必要性を再度強調。
鳥海は「ランニング費用が課題になる」として、「それをSCORERで解決していく」と改めてSCORERの普及に意欲を示しました。
パートナービジネス戦略発表
続いて、当社CAO・金田 卓士より「SCORERパートナープログラム」の発表を行いました。
金田はまず、映像解析AIビジネス成立のための要件として「業界知識・ノウハウ」「技術進歩」「ROI」の3点を提示。
映像解析AI市場は東京オリンピック関連の需要や少子高齢化による人口減少などの影響で追い風が吹いているとした上で、「現在はイノベーター理論でいうアーリーアダプターがいろいろ試している時期でキャズム越えまで2〜3年。市場の勝者はまだ存在していない」と現状を分析。「この新しい領域を皆様と勝ち取っていきたい」と訴えました。
そこで始動するのが、SCORERパートナープログラムです。
パートナープログラムでは、VARパートナーとインテグレーションパートナーの2種類のパートナーを募集。
VARパートナーは当社のソリューションパッケージに付加価値をつけて販売していただくパートナーであり、インテグレーションパートナーはプラットフォームを活用したサービスやシステムを開発していただくパートナーとなります。
パートナープログラムに参加するメリットとして、金田は次の3点を挙げます。
- パートナーの案件は優先して対応
- 映像解析に関する知識、ノウハウ、技術を提供
- 資料共有、セミナー共済、営業同行などで販促を支援
ソリューションパッケージとしては、「交通量・通行量調査」や「デジタルサイネージ視聴効果測定」、「小売り店舗視聴効果測定」などを用意。それぞれのソリューションの事例なども紹介しました。
株式会社ホワイトボード 代表取締役社長 橘田考一氏による事例紹介「映像解析AI × 交通量調査」
『SCORER Partner Summit 2018』後半は3社にご登壇いただき、SCORERの導入事例についてご説明いただきました。
まず、株式会社ホワイトボード代表取締役社長 橘田 孝一氏からは、AIカメラを活用した2号警備(屋外警備)システムのご紹介。
警備業界はイメージの低さや他業界への人材流出などから、慢性的な人手不足が続いているとのこと。
そこで橘田氏が提案するのが、SCORERを活用したハイブリッド警備「KB-eye」(ケービーアイ)です。これは「人とAIが補い合う新しいかたちの警備システム」だといいます。
ハイブリッド警備システムの機能ラインナップは3つ。
雑踏密度が一定以上に上がると警備員に連絡が入る「雑踏検知」。危険エリアに侵入が入ると連絡が入る「侵入検知」。脇道から車両や人が接近すると連絡が入る「脇道検知」です。
この「KB-eye」を実現するまでには技術やAIに対する知見、リソースや社員のやる気など様々な壁があったといいますが、いずれもSCORERとフューチャースタンダードのサポートにより解決できたとのことです。
株式会社クレスト 代表取締役社長 永井俊輔氏による事例紹介「映像解析AI × マーケティング」
次に株式会社クレスト代表取締役社長 永井 俊輔 氏が登壇。
同社はサイン&ディスプレイ事業に加えて、小売事業も展開。店舗のショーウインドウディスプレイや店内広告の指標を数値化する「エサシー」により、これまでのトラフィックカウンターでは測ることのできなかった入店率や購買量、ディスプレイ視認秒に対する投資効果などを計測して提供しています。
こうしたデータを測定するために活用されているのがSCORERです。
これまでにも小売業の店舗にカメラは設置されていましたが、「何人入ったのか」はわかっても、「店舗前を何人通り、そのうち何人が入ったのか」までは測定できませんでした。
またメインディスプレイのPVや、それによって購買量に影響が出るのかといったデータも取得が難しく、効果測定が曖昧でした。
SCORERの導入で、こうしたデータを取得することができるようになり、相関関係が明らかになったといいます。
永井氏は「すべての現実世界の広告価値や店舗のデザインの価値が解析される世界」を目指しているとのこと。フューチャースタンダードはそのためのベストなパートナーということです。
TIS株式会社 長井大典 氏による事例紹介「映像解析AIを活用した新ソリューション開発の事例」
3社目は、TIS株式会社からAIサービス事業部の長井 大典 氏が登壇。ロボットインテグレーション事業でのSCORERの活用についてお話しいただきました。
独立系システムインテグレーターである同社では、SCORERを様々な案件でご活用いただいています。
たとえば、工場内でカメラの画像から各種部品を運ぶ作業者の動線を判定するシステムや、サーモグラフィ画像から設備機器の温度を分析するシステム、店舗来場者の人の動きをカメラで判定し分析するシステムなど。
こうした実績を踏まえた上で、長井氏はSCORERについて、「速く、安く、いろいろな組み合わせで使えるのがちょうど良い」と高く評価されています。
また、今後はロボットインテグレーション事業への活用も考えているとのこと。
現在、ホテルやショッピングモールなどの商業施設で活躍するサービスロボット、警備ロボット、オフィス清掃用ロボットなど、すでに様々なロボットの導入が進んでおり、移動カメラとしての役割も果たしているといいます。
こうしたロボットから取得したデータをSCORERで解析することにより、新たなサービスを提供できると長井氏は考えておられるそうです。
SCORERの今後の戦略について
最後に当社代表取締役CEOの鳥海 哲史が再度登壇。『SCORER Partner Summit 2018』の締めくくりとして、SCORERの今後の戦略について語りました。
鳥海はSCORERの特徴として「クイックスタート」「コストエフェクティブ」「フレキシブル」の3点を強調。今後もこの特徴をより極めていくことを明言しました。
ロードマップとしては、2018年に新規APIやVPNサービス、クラウドSDKの公開を予定しており、来年以降、AIマーケットプレイスの公開やブロックチェーン技術の応用も考えているとのこと。
「映像解析AIのクックパッド」を目指して、パートナー様に向けて積極的な情報提供を行っていくことを宣言しました。
展示ブースでは各サービスのデモンストレーションも
『SCORER Partner Summit 2018』では、講演会場以外にも展示ブースを設置。サイネージ視聴者の属性を推定する「SCORER for Signage」や、店舗来店者の属性を推定する「SCORER for Retail」、映像解析AIによる交通量・通行量解析を行う「SCORER Traffic Counter」といった各サービスのデモンストレーションを行いました。
イベントの休憩中や終了後には展示ブースに多くの来場者が立ち寄り、大きな反響を呼んでいました。
なお、パートナープログラムについては以下の情報をご覧ください。
パートナープログラム申し込みページ(こちら)
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